嗤うケダモノ
「ナニやってンだよ。
らしくねーよ。」
『…』
アキもどきが無言で足を踏み出し、日向に一歩近づく。
けれど、日向は動かない。
「アキは虫も退治できないくらいヘタレで…
ううん、優しかったじゃねーかよ。」
もう一歩。
縮まる日向とアキもどきの距離。
「アキぃ!! 目ぇ覚ませ!!
戻って来いぃ!!!」
今にも泣き出しそうに顔を歪めた日向が絶叫すると、アキもどきがビクリと揺れて動きを止めた。
アキの心が蘇る…
なんて、都合よく物事は進まない。
友人の説得ごときで除霊が成功するのなら、世に怪談は生まれない。
アキもどきはゆっくりと腕を持ち上げ、日向の細い喉に向かって…
(ヤバ…)
由仁は床に這いつくばったまま片手を伸ばし、アキもどきの足首を掴んだ。
だが、力が入らない。
さっき首を絞め上げていた、圧倒的な力の足元にも及ばない。
由仁は奥歯を噛みしめ、ついでに己の無力さを噛みしめた。