【完】白衣とお菓子といたずらと
「山下さん飲みに行きません?」


……だよな。香坂の言葉にため息が出そうになった。そういえば、こういう空気を読める奴じゃなかったな。


今日はそんな気分ではない。


それに、帰ったら美沙が待ってくれているはず。凹んで、そして疲れているところを見られるのは彼女だけでいい。美沙に早く癒されたい。


「今日は無理。早く帰らないといけない日だから」


仕事の間は考えないようにしていたけれど、早く帰りたいという気持ちが強くなった。


「もしかして小川ですか?」


俺の表情で何か伝わったんだろう。大山がずばり当ててきた。


特に隠すつもりはない俺は、そのままに答えた。


「あぁ、今日は彼女が家で待ってくれてるからな。急いで帰るよ」


「小川と上手くいってるんですね」


「それなら引きとめられないです」


美沙と過ごすというと、みんなあっさりと引いてくれた。


話をしながらも、俺は手を止めることなくせかせかと着替えを済ませた。




――バタン




着替え終わるとロッカーを閉め、俺より部屋の奥にいる3人の方へと向き直った。


「ごめんな。また後日飲みには行くから。じゃあ、お疲れ」


後日であれば、ゆっくり飲みに行きたいというのも本心。


けれど、早く帰りたい思いの方が強く、悪いなと思いながらも、足早に更衣室を後にした。
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