例えばここに君がいて
18.守りたいって思っているのに。

 そんな風に、サユちゃんとの距離をちょっとずつ縮めながら俺は幸せ気分を満喫していた。
クスクス、小さく笑う女子たちにも気づかずに。

それに気付かされたのは、放課後の部活の時。
いつものように、颯と校舎外周ランニングをしている時のことだ。

放課後、サユちゃんは三階の美術室で県展に出す絵を描いている。
いつも一時間位集中的に描いて、帰るんだそうだ。

「もし遅くなるようなら送っていくから部活終わるの待っててよ」

なんて、一緒に帰りたいアピールもしてみたが、彼女は遠慮気味に「大丈夫」なんて言う。

いや、俺はむしろ一緒に帰りたいんだけど。
サユちゃんは分かってかわしているのか、それとも単純に遠慮しているだけなのか。
女心は全く読めない。

その日もタイミングよくサユちゃんが窓辺に現れたので、俺は軽く手を振る。
サユちゃんの頬には遠目でもわかるくらいの赤色の絵の具がついていた。指でそれとなく指摘すると、気づかない彼女はただ微笑んで手を振り返す。可笑しくなって笑っていたら歩幅がおかしくなり、小躍りするようなステップになった。


「仲いいねぇ」


冷やかすように小さく口笛を鳴らすのは颯。それが気になって視線を颯の方に向けると、その先に下校する珠子と新見の姿が見えた。

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