例えばここに君がいて

「おーい。今日は和晃一緒じゃないのか?」

「あら、中津川くん」


無表情で新見が振り向き、珠子が愛想よく返事をする。


「和晃はねー、部活見学に行ってる。バスケ部だってー」

「もう六月だぞ。今更かぁ?」

「ようやく色ボケが落ち着いてきたんでしょ」


クールに言い放つ新見。
相変わらず和晃には冷たいな。仮にも幼馴染なら、もう少し優しくしてやればいいのに。
珠子の方は楽しそうに口元に伸ばした一本指を当てる。


「でもバスケは格好良いよね。イマイチルールはわからないんだけどさ」

「アンタはマンガの影響でのにわかファンでしょうが」


二人の会話を聞いて、なんとなく状況を理解する。
珠子が格好いいって言ったからバスケ部なんだな。和晃ってホント単純というか、痛々しいな。


「まあ運動して体作るのはいいことよ。中津川くんも頑張って」

「おう。サンキュ」


そんな会話をしてランニングを再開すると、その後ろの女子の一団が、俺と新見を見ながらコソコソ何かくっちゃべっている。


「ほら、やっぱり」


小さく聞こえてくるそんな声と笑い声が俺と新見に交互に向けられて、まるで小さな針で刺されているような不快感が襲ってくる。


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