復讐
「いらっしゃいませ」

そう言って、一人の女性が三井の席に着いた。

目鼻立ちの整った端正な顔立ちをしていて、肩下ぐらいまで伸びた髪の毛は艶やかな黒色をしていた。

「はじめまして。美帆です。お客様、何を飲まれますか?」

「そうだな。ヘネシーをロックで」

美帆は得意の営業スマイルで「かしこまりました。少々お待ち下さい」と言うと、席を立ち安田のもとへ歩いた。

三井は、そんな美帆の後ろ姿を見て、なにか違和感を感じた。

しかし、その違和感に気付くのに時間はいらなかった。

普通ホステスは、自分で歩いて注文を伝えになどいかない。
手を挙げてボーイを呼ぶものだ。
しかもボーイなら、わざわざ安田のもとに行かなくとも、すぐ近くに他のボーイも立っている。

そして案の定、安田のもとに行った美帆は、安田となにやら小声で話しをしている。

できるだけ、そちらに視線を送らぬよう気をつけながら、三井は耳をそばだてた。

はっきりとは聞こえないが、要所要所に『幸治』という言葉が聞いてとれる。

三井はおかしいと思った。彼女は三井を知らない筈だ。なのに彼女は、三井の顔を見た途端安田のもとへ行き、幸治の名前を口にした。同じ店の従業員なら、幸治のことを知っていて当然だ。しかし、三井と幸治の関係を知っているというのはおかしすぎる。

しかし三井は、美帆が戻ってきても、敢えてそれをつっこまないことにした。

いろいろと聞いたところで、たいした返事が返ってこないことくらい分かっていたからだ。

しかし席に戻った美帆は、思いもよらぬ事を言った。
「幸治は、もう貴方のことを疑っていません。ただ事件の事を思い出したくないみたいです」

三井は、美帆の発言に驚き、安田を見た。

安田も三井を見て、小さく頷いた。

「驚いた。君は一体?」

「松岡美帆です。新潟から上京して来て、幸治の家でお世話になってます」

「幸治君の家でかい?それは…」

言葉を選ぶ三井に、美帆は隠すそぶりも見せずサラリと言い放った。

「居候です」

「そうだったのか。どうりで事情を知ってる訳だ。でも何故同居を?」

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