復讐

地下鉄銀座線の銀座駅から地上へ上がると、クリスマスが迫っていることもあり、街はイルミネーションで輝いていた。

更に金曜日ということで、街は人と車で溢れ返っていた。

三井は、渋滞によって全く動く気配のない車を見て、電車で来て正解だったな、と思うと自然と笑みがこぼれた。

中央通りを新橋方面に歩き、銀座七丁目あたりで左に入り、ほどなくした所に『ClubBell』はある。

雑居ビルの壁には、クラブやらスナックやらの看板がぎっしりと並べられている。

三井はコートを脱ぐと、慣れた様子で古いエレベーターに乗り3階を押した。

エレベーターを出ると、薄暗いホールを挟み、反対側に『ClubBell』の入口がある。木製の重たい扉に、かわいらしい筆記体で掛かれた店名からは、温かい雰囲気すら伝わってくる。

これで一見さんお断りと言われても、断られた方は納得いかないだろう。

敷居が低く、どうぞ誰でも入って下さいとでも言いたげな門構えだからだ。

もしかしたら亡くなった仲辻雪乃は、開店当初はそういう敷居の低い店にしたかったのかもしれない。

三井は重たい扉を開け、堂々と店内に入っていった。
しかし昨日までは、そうはいかなかった。
扉の前で何度か深呼吸をし、気持ちの準備をしてから入っていた。

そして三井が店に入ると、入ってすぐのところで安田が待っていた。

三井は安田を見ると、すぐに頭を下ろした。

「昨日は、突然すいませんでした」

「おう。とりあえず裏で待っててくれよ。すぐ行くからよ」

安田はそう言うと、右手の親指で背後を指さした。

しかし三井は、それに応じようとせず、首を振った。

「すいません。今日はお客として飲ませてもらってもいいですか?」

それを聞いた安田は、眉間に皺を寄せ、渋い顔をした。

「だめですかね?」

「まぁ、いいか。今まで、跳ねっ返してきた詫びだ。飲んでけよ」

「ありがとうございます。ところで幸治くんは?」

その質問に、安田は首を振った。

「そうですか。まぁ彼としても複雑ですよね」

「まぁな。でもまぁ、あいつも男だ。いずれやろうって気になってくれるだろ。とりあえずこっち来な」

安田はそう言うと、三井をテーブルに案内した。
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