復讐
安田から電話があったのは昨夜遅い時間だった。

松岡とかいう、ClubBellに出入りしている男が怪しいから、調べてくれとの事だった。

事の詳細も、安田から聞いた。

確かに怪しい。
しかし本来であれば、今は仲辻雪乃事件の真犯人捜しに尽力を尽くさなければいけない時だ。

やっと安田と幸治の誤解が解け、これから本腰を入れてやっていこうとした矢先だからだ。

だが、肝心の幸治に何かあっては捜査も進めずらくなる。

三井は、仕方がなくそれを引き受ける事にした。




松岡の運転する車は、中央通りを進むと、すぐに新橋から首都高速に乗った。
三井も、一定の距離をとり首都高速に乗る。

「しかし、室内に盗聴器を仕掛けるなんて、なかなかやるよな。幸治君はなにも心当たりがないんだろ?」

三井はそう言うと、ルームミラーで後ろを確認し、車線を変更した。

松岡との間に2台の乗用車が入ってしまい、松岡の車を確認しずらくなったからだ。

そして車線変更した事により、斜め後ろの角度から、それがよく見えるようになった。

「はい。ないです」

「まぁ、狙われてる方ってのは、そんなもんなのかな」

三井は鼻で笑った。

しかし、幸治はそれには答えなかった。
じっと、松岡の車だけを睨んでいた。

三井は、ゴホンと咳ばらいをしてみせ、幸治の気をひいた。

「それより幸治君。彼は今日アルコールは飲まなかったのかい?」

松岡は、今日もClubBellで美帆を指名し、その帰りなのだ。

「いや、飲んでますよ。完全に飲酒運転です」

三井は、やはりな、といった様子で、松岡の運転する車をチラリと見た。

飲酒運転と聞いた瞬間、一瞬表情が曇ったが、それでも驚かなかったのは、ClubBellに行っている時点で、大体の予想はしていたからだ。

しかし、安田から松岡はお坊ちゃんだと聞いていただけに、代行運転でも頼むのかと思ったが。

自分で運転しているところを見ると、相当運転が好きなのか、それともただの馬鹿かのどちらかだろう。

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