復讐

まったく。もう年の瀬はすぐそこまで迫っているというのに、なんだってこんな事をしなきゃいけないんだ。

三井は、暖房を全開に効かせた車内で一人、ホットコーヒーを啜りぼやいていた。

街は、先日までのクリスマスムードから一転、新年を迎える準備にとりかかっていた。

いつもは交通量の多いこの通りも、全くと言っていい程、車が少ない。

そんな景色を見る度、三井の心は憂鬱になっていった。

かれこれ1時間も、車内で待ちぼうけを喰らい、缶コーヒーも全て飲み干してしまった。

しかし、もう一本ぐらい買おうかと思っていたその時、助手席側の窓をノックする音が聞こえ、三井はそれに目をやった。

窓の外に立っていたのは、両手に缶コーヒーを持った幸治だった。

三井は助手席の窓を開けた。

「三井さん。もう来るよ」

三井は「分かった」と言うと、体を目一杯伸ばし、助手席の鍵を開けた。

そして幸治は、助手席に座り、三井に缶コーヒーを一つ渡した。

「お、気が利くな」

三井はそう言い、幸治から缶コーヒーを受け取った。
しかしその瞬間、三井の表情がみるみる強張っていった。

「幸治君。君は、こんな寒い日にアイスコーヒーなんて飲むのかい?」

すると幸治は、キョトンとした顔で缶コーヒーを三井に向けて見せた。

「ホットですよ」

「いや、アイスじゃないか。ほれ」

三井はそう言って、それを幸治の膝の上に放り投げた。

「あぁ、三井さんのはアイスですよ。ずっと車の中にいたら、暑いんじゃないかと思って」

そう言った幸治の優しさに、三井は戸惑いを見せながらも言い返した。

「君は馬鹿だ。ホットコーヒーを飲めるのは、この時季だけなんだぜ。言わば期間限定って訳だ。それなのにわざわざアイスコーヒーを買うなんて、一体どういうつもりだい?第一ね…」

三井がそう言いかけた時、幸治はぶすっとした表情で、三井にホットコーヒーを投げ付けた。

「ホットがいいんだったらあげますよ」

三井はニヤっと笑い「ありがとう」と言って、缶のプルを開けた。

その時、幸治が小さく声を発した。

「三井さん。来たよ。松岡和幸だ」

そして三井は、缶をホルダーに置き、ギアをドライブに入れた。

「さぁ、尾行開始だ」
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