復讐
その後Uターンを二度繰り返し、再びさっきの道に戻った三井は、先程松岡が左折した道を、後を追うように曲がった。

そして幸治の記憶では、松岡は左折した後、3つ目の信号を再び左折していた。

三井もそこを左に曲がる。
曲がった先は一方通行の道になっていて、決して狭くはないが、車2台はぎりぎり通れないだろう道幅だった。

三井と幸治は、後ろから車が来ないかどうかだけに気を付けて、両脇に並ぶ豪邸の表札を、一つ一つ丁寧に見ていった。

しかし、なかなか松岡という表札は見つからず、三井はぶつくさと愚痴をならべながら、その周辺区域をぐるぐると回っていた。

そして、30分程捜し回った時、ようやく幸治が松岡の表札を見つけた。

ただ表札を見るだけの単純作業に、飽き飽きとしていた幸治は、歓喜ともとれる程の声を上げた。

「やった!三井さん見つけましたよ。松岡!松岡って書いてあります」

三井は「よくやった」と言い、ちらっと建物に目をやったのだが、それを見た瞬間、急に表情を変えた。
しかし幸治は、それに気付かず、目の前に広がる豪邸、松岡邸に目を輝かせていた。

「すげぇや。警備員まで立ってるじゃないっすか。一体、奴の正体なんなんですかね」

だが三井は、幸治の言葉に全く反応せず、どこか浮かない表情のまま、松岡邸の前を通り過ぎて行った。

幸治は、ひじ掛けに乗せた三井の左腕を掴んだ。

「三井さん!なんで止まらないんですか?」

三井の表情は曇ったままで、幸治に掴まれた腕を振り払おうともしない。
そして前だけを見て、虚ろな表情のまま言った。

「場所が分かったんだから良いじゃないか。僕の仕事はこれで終わりだ」

「でも…」

幸治がそう言いかけた時、三井は急に車を止め幸治を睨み、怒鳴りつけた。

「じゃあ聞くけど、松岡の家の前で止まって、君は一体なにをしたいんだい?彼の家に侵入でもしてみるか?それともロケット花火を打ち込むか?どうせ何もすることはないんだ。帰ろう」

三井はそう言うと、再び車を発進させ、月島方面へ向かった。
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