小春日和
 


月明かりだけが頼りの闇の中、辺りをよく観察すれば、林の中、すぐ側に小川が流れているみたいだ。



シンとした闇の中、それは唐突に起こった。柔らかな黄緑色の小さな光が、ふわりと風に流されたかのように舞う。



『あ…!』



それが呼び水となったのか、一つ、また一つと小さな光が瞬いて、そしてよく見れば辺り一面に小さな光が、ふわりふわりと舞っていた。



それは生まれて初めて見る蛍で、儚く幻想的な光景に息を飲む。そして猛さんの優しさが胸いっぱいに溢れて、今なにか言葉を発したら泣きそう。



感動に震えながら、暫しその幻想的な光景を堪能した私は、隣で何も言わずに寄り添ってくれてる猛さんに抱きついた。



『………ありがとう、ございます』



ちょっぴり声が震えていたけど、猛さんは何も言わずに、ただ抱きしめてくれた。



「本当はもっと有名な名所で蛍を見せてやりたかったけど、余り人の集まる場所には連れて行ってやれないんだ。すまん」



『いいえ。私に蛍を見せてくれてるために、忙しいのに無理して連れてきてくれたんですよね。ありがとうございます。この光景を一生忘れません』



「無理なんざしてないさ。また来年も、再来年も、この先何度でも連れてきてやるから、一緒に蛍を見ような」


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