窒息寸前、1秒
「あーあ、またひとりか。」
私はまだ帰る気にはなれずに、下駄箱の隅でしゃがんだ。
隆弘は今日もあの人のところに行くんだ。
隆弘は私にはバレてないと思っているだろうけど、知ってるんだ。
実はあの人を、私は2回見たことある。
隆弘とデートが途中で中止になって、そのままフラフラ街を歩いていたら、隆弘と女の人がふたりで歩いているのを見てしまった。
大人っぽい、綺麗な人だった。
もう一回は、隆弘の家で。
一緒に試験勉強しようってなって初めておじゃました、隆弘の家。
「あら?たっくんのお友達?」
「はじめまして、永瀬花那です。」
お辞儀して顔をあげた瞬間、私は固まってしまった。
「どうも、隆弘の姉の由梨子です。」
にこりと微笑んだ顔は綺麗で見とれてしまったけれど、それよりも私に向けられた圧倒的な敵意に気づいてしまった。
そして、街で見たあの人だってことも気づいてしまったから。
「由梨子姉さん、もういい?」
隆弘は笑っていたけど、その横顔には焦りが浮かんでいた。
焦っているの時、いつも人の目を見て話す隆弘は、目線を下へ外すクセがある。
私は、確信してしまった。
いつも、隆弘を呼び出しているのはこの人なんだと。