窒息寸前、1秒




「あーあ、またひとりか。」



私はまだ帰る気にはなれずに、下駄箱の隅でしゃがんだ。



隆弘は今日もあの人のところに行くんだ。



隆弘は私にはバレてないと思っているだろうけど、知ってるんだ。



実はあの人を、私は2回見たことある。



隆弘とデートが途中で中止になって、そのままフラフラ街を歩いていたら、隆弘と女の人がふたりで歩いているのを見てしまった。



大人っぽい、綺麗な人だった。



もう一回は、隆弘の家で。



一緒に試験勉強しようってなって初めておじゃました、隆弘の家。



「あら?たっくんのお友達?」



「はじめまして、永瀬花那です。」



お辞儀して顔をあげた瞬間、私は固まってしまった。



「どうも、隆弘の姉の由梨子です。」



にこりと微笑んだ顔は綺麗で見とれてしまったけれど、それよりも私に向けられた圧倒的な敵意に気づいてしまった。



そして、街で見たあの人だってことも気づいてしまったから。



「由梨子姉さん、もういい?」



隆弘は笑っていたけど、その横顔には焦りが浮かんでいた。



焦っているの時、いつも人の目を見て話す隆弘は、目線を下へ外すクセがある。



私は、確信してしまった。



いつも、隆弘を呼び出しているのはこの人なんだと。


< 3 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop