意地っ張り

で、なんで飲み直す場所が
ここなんだろう。





『さっさと上がって来い』





私の方を振り返り
いつもの口調で命令する。





ここに来るんだったら
意地でも断ったのに。





幾度となく足を踏み入れた
ことのある松本の部屋。





以前とさほど変わらず
綺麗に整頓されていて、
いつ来ても女の影が
見えない部屋だ。





背広を脱ぎ捨てネクタイを
グッと緩めた松本は、
ソファーにドカッと座り
私に缶ビールを差し出した。





私はそれを受け取ると
テーブルをはさみ松本の
目の前に座り込んだ。





よくここに来ていた頃は
同期のメンバーがもっと
たくさんいた。





そのうち、1人、2人と
退社していくうちに
私もここに来ることは
無くなっていた。





『お前、寿退社でも狙ってるわけ?』





「は?…なによ、それ」





『いや、なんでもねぇ』





「…意味わかんない」





なによ。さっきは関係ねー
なんてぶっきらぼうに
言い放ったくせに。





アンタを諦められるなら
寿退社も夢じゃないかもね。




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