赤ずきんは狼と恋に落ちる
「その……、今日はありがとうございました」
顔はまだ、ちゃんと見れない。
マグカップを持ち、両手には心地好い熱が伝わってくる。
「あんなことがあっただけで泣いてちゃ、ダメですよね!もっと、強くならないと!
あれで、すっきりしました!本当に、もう彼には何も想いません」
言わなくてもいいことばかり、口を突いて出てくる。
私が言いたいのは、こんな強がりじゃないのに。
「あ、……あと、あの、あの時、庇ってくれて嬉しかったです。でも、あの……、キス、とか……ごめんなさい……。そんな……恋人でも、何でもないのに……」
私、何が言いたいんだろう。
自分自身が情けなくてたまらない。
続きの言葉を必死に考える。
何て言えば良いんだろう。
私が今、何を言っても、千景さんには何も伝わらないのかもしれない。
隣で黙ってコーヒーを飲んでいた千景さんは、静かにカップを置いた。
「嫌、やった……?」
予想外の言葉に、一瞬だけ言葉を失う。
「嫌」なんて、思わない。
それを、どんな言葉で伝えれば良いんだろう。
「え?いや、そんな!嫌とか、そんなんじゃなくって、あの……
……好きなんです」