赤ずきんは狼と恋に落ちる
千景さんがまた私のところに帰ってくる。
何度も妄想して、淡い期待を抱いていたのは、もう1年も前だ。
「忘れた」。
周りにはそう言って笑い飛ばしていたけれど、それは嘘だ。
忘れるはずがない。
忘れられるはずがない。
そう思っていても、どうせ帰って来ないんだから、と気にしていないふりをして、自分を誤魔化していた。
いざ会った時、何て言おう?
千景さんが帰ってきたという妄想をして、色々考えていた。
「おかえりなさい」。
「会いたかった」。
「もう離れないでね」。
「大好き」。
あれだけ考えていたのに、何一つ言えなかった。
ここでうじうじしていても仕方ないか、と千景さんの服を取り出して、全部乾燥機に掛けた。
「千景さん、」
コンコンと浴室のドアをノックし、「あと30分は出て来ないでくださいね」と言い残し、私も着替えた。