赤ずきんは狼と恋に落ちる
それはもう、ふてぶてしく、慇懃無礼そのものだった。
いつも聞いている中途半端な関西弁ではなく、完璧な標準語。
それと、「りこ」。
ずっとずっと、頭から離れなくて、脳内で私の名前を呼ぶ声がリピートされる。
「お前……!」
「ちょっと……」
後ろに居る彼らの声を聞き、店内のざわめきと一緒に、声も消える。
チラリと見ると、侮辱された元彼が握り拳を震わせていた。
そんな彼を、冷たい目で見ている千景さん。
気にも留めていないといった様子で、
「聞かれてたみたいだね?早く出ようか」
と、柔らかく笑い、去り際に「失礼」と言った。
手を固く握られたまま、店内を後にすると、先ほどケーキとコーヒーを持ってきてくれた彼女が、困ったような笑みを浮かべていた。
軽く会釈しようとしたが、情けない私の姿を晒してしまったので、何だか気が引けて出来なかった。
手を固く繋がれ、スタスタと前を歩く千景さん。
謝らなきゃ。
……何を?