赤ずきんは狼と恋に落ちる
子供が泣きじゃくるみたいに、私は泣いた。
人が幸せそうに歩いているなか、私は泣いた。
これだけでも多大なる迷惑をかけているのに、千景さんはずっとずっと黙って傍に居てくれた。
こんな優しい人だから、さっきみたいに公の場でキスするのは、辛かっただろうに。
「ごめん……、なさい………っ」
謝ることしか出来ない私は、どうしようもないダメ女だ。
千景さんと繋がったこの右手を、離さなきゃ。
「私は平気です。もう大丈夫です」って、言わなきゃ。
「りこさん、」
ふいに、千景さんが声をかけた。
「謝らんといて」
そう言って、私の頭を優しく優しく撫でる。
まるで、幼い子供を宥めるみたいに。
「お家、帰ろ?」
大きくて、温かい、千景さんの手。
右手から伝わる僅かな熱も、ふわりふわりと頭に降ってくる熱も。
私には、心地好くて、辛かった。