Taste of Love【完】
「うち、両親がいないんだ。だから姉貴が俺の唯一の家族だった。俺のために働いて学費稼いでさ。唯一の楽しみがスイーツだったんだろうな。でもある日俺に言ったんだ。最近何を食べても味がわからないって」

「それって……」

「あぁ、味覚障害を起こしてたみたいでさ。“舌癌”だったんだ。気が付いた時にはかなり進行してて。ガキの俺でもわかった。これはやべーなって」

「そんな……」

「でも、姉貴が言うんだ。俺の焼いたホットケーキが食べたいって」

 大悟はそこで、手をギュッと握りしめた。

「俺すぐに作ってやったらさ。味わからないはずなのに“うまい、最高!”とかいいやがんの。笑顔で」

 無理矢理笑顔を浮かべている大悟を見て、風香の胸が締め付けられる。

「いい歳した、男が『ネェちゃん』にケーキだぜ?キモイよな?製菓の専門学校に行ったのも、今俺がパティシエしてるのも、きっかけは全部姉貴のためだった」

 風香はその言葉を聞いて、彼がどうして自分にこだわったのか理解した。

「いつか、俺の作ったお菓子なら、味がわかるんじゃないかって期待してたけど。俺に気を遣った偽物の“美味しい”だけを残してあの世に行っちまったんだけどな」

 大悟は小さな息を一つ吐いた。
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