Taste of Love【完】
「結局俺には、何もできなかったってことだ」
 
自らを嘲笑するような、笑いを浮かべる大悟に風香は言う。

「お姉さん、本当に美味しかったんじゃないのかな?」

「ん?」

 風香の言葉に、大悟は違和感を覚えたのだろう。

「きっと、美味しかったんだと思います。味がわらかなくても。きっと伝わったんですよ」

 身を乗り出して、必死に訴える風香に大悟は目を丸くした。

「……どうしたんだよいきなり」

「だって、浅見さんがわかってないから」

 風香はまだ言葉を続けた。

「浅見さん。お姉さんの“美味しい”っていった意味分かってない。浅見さんが作ったお菓子が、浅見さんのその気持ちがきっとお姉さんには“美味しい”と思えたんですよ。だから……何もできなかったなんて言わないでください」

 感情に任せてまくしたてた風香の目もとが潤む。

 それを見た大悟の表情は、最初こそは驚いていたものの徐々に柔らかい笑顔へと変わっていった。

「……ありがと。なんかこんな話するのお前が初めてだったけど、話せてよかった」

 指を伸ばして、風香の前髪をクシャっとかき分けた。

 そして、まだ目を潤ませている風香の口に、オランジェットをつまんで食べさせた。

「……美味しい」

 風香のつぶやきに大悟が笑顔で返す。

「俺が作ったんだから当たり前だ」

 いつもの横柄な態度に戻った大悟だったが、それが彼の内側にある優しさを隠そうとするものだと分かった。

 それはまるで、彼の作る繊細で甘いスイーツのようだ。

 風香は大悟の作ったオランジェットを自らもつまんで口に入れた。

 それは、あのバレンタインの日から初めて風香が進んで口にした、チョコレートだった。

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