Taste of Love【完】
◆旅立つ人、傷つく人
あの日から一週間、風香はバレンタイン企画に追われていた。
 
会議や打ち合わせ、時間に追われるなかで、休憩には大悟のオランジェットを口にしていた。

(他のチョコはまだやっぱりダメだった。でもこれがきっかけでまた食べられるようになるかもしれない)

 過去のトラウマが取り除かれつつあることを、風香は喜んでいた。

 仕事を終えて家路に着く。比較的早くに帰ることができたので、本屋によって春の新作のアイデアになるような雑誌がないか、チェックするつもりだった。

 「お疲れ様です」

 エレベーターを降りて、すれ違う人に挨拶をする。

 「結城さん。ちょっといいですか?」

 呼び止められて振り向くとそこには、見慣れない女性が立っていた。襟元にはサニーエイトの社章があることから、同じ会社の社員だということがわかる。

 「突然すみません。私、秘書課の横山といいます」

 「秘書課の横山さん? あの……」

 目の前の人物に呼び止められる用件が、思い当たらない。

 「あの……三栖室長のことでお話があるんです」

 真剣な表情から、風香は彼女の申し出を断ることができなかった。

 近くの喫茶店へと移動して、向かい合って座る。

 頼んだコーヒーが運ばれてくるとすぐに、相手が話を始めた。

「三栖室長のお見合いの話は聞いていますよね?」

「はい……」

(翔太の見合いを会社の人まで知ってるの? 横山って、あっ……)

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