Taste of Love【完】
ふざけて返すと「なら、お礼ぐらいもらってもいいよな」とちょっと意地悪い顔をした。

「なんですか?お金ならありませんよ!」

(いきなり何言いだすの?あの笑顔がちょっと怖いんだけど……)

「また俺にお菓子作ってきてくれよ。またあのシフォンケーキ食べたい」

風香ははっと息をのんだ。

それと同時にあのバレンタインデーの日に胸の中に渦巻いた痛みが、一瞬フラッシュバックする。

翔太に気が付かれないように、その痛みを飲み込んでから笑顔を作り張り付けた。

「こんなに仕事が忙しくて時間がないのに、そんなことできません。ランチおごりますからそれで許してください」

うまくかわしたつもりだ。

「ランチなんかじゃなくて、あのシフォンケーキが食いたい」

(な、なにその熱っぽい目)

さっきまではなかった、翔太の瞳の奥の熱に気がついてその意味を知りたくなる。

(いや、きっとアルコールのせいでそう見えるだけだわ)

「これ以上私の睡眠時間削らないでください」

おどけてそう返すのが精いっぱいだった。

「そっか、まぁ仕事でいやっていうほど作ってるもんな」

一瞬残念そうな顔をしたのをみて胸がチクリと痛んだ。

(他の人ならまだしも、翔太に作るなんてできないよ)

癒えていたはずの傷がまた疼きだす。
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