彼がヤンデレになるまで
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雨の中を、傘もささずに帰宅した。
仕事を終え、さあ戻ろうと足を進めたのに――何故、ここに来てしまったのだか。
カルツを見、硬直する“猫”。今まで必要最低限でしか詰めなかった距離は、『空っぽ』と称された時から縮んでいる。
食事をする以外で訪れたのは初めてだ。電気も点けずに何をやっているんだかとも思わず、カルツは足を前に出した。
ぐっしょりと濡れた体。体温は平熱以下で、唇も青くなる。
濡れた頭が重い。水分を含む服で体が押し潰されそうだ。
「風邪でも引きたいんですか」
硬直していた“猫”が動き出す。
身につけていたバスローブ。タオル地のそれは、体を拭くのにも使えるだろう。
咄嗟の行為だ。どうせ傷手当てのさい、体は見られているんだと、“猫”はバスローブを脱ぎ、カルツの頭に被せた。