box of chocolates
「わかりました。ちょうどクラシックを目指している馬の手綱を握っています。その馬でダービーを優勝します」
 私が知っている貴大くんとは別人のように、男らしく言い切った。
「ダービーの日は、店を休みにして競馬場まで足を運ぶから」
「はい。楽しみにしていて下さい」
 父は少し微笑んで、席を立った。その背中を見送ってから、母が駆け寄ってきた。
「ごめんなさいね。不愉快な思いをさせたわね」
「いえ、とんでもないです」
「それにしても、どうして騎手はダメ? 貴大くん自身のことを見てほしいのに」
「ごめんね、杏」
 ぷりぷりする私に、母が申し訳なさそうに言った。
「お母さんは謝らなくていい」
「杏ちゃん、そう怒らないで。ダービー、優勝するから」
 もうこうなったら、貴大くんを信じるしかない。
「わかった! 家族揃って応援に行くね!」

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