box of chocolates
 私は、スマホを握りしめたまま、貴大くんが来るのを待った。早く会いたい。でも、どんな顔をして会えば良いんだろう。また、ぼんやりと時間だけが過ぎていった。

 そして、スマホが着信を告げた。

『もしもし? 今、駐車場です。来て下さい』
 さっきの明るい声とは違う。少し違和感を覚えつつ、駐車場に向かった。軽自動車の前で貴大くんは待っていた。
「ごめんね、突然」
「ううん、お疲れ様」
 なんとなくぎこちない会話になった。どのような言葉をかけてあげれば良いか、わからなかったからだ。いつもの私なら、今回は残念だったけれど来年、また頑張ろうよ! と明るく元気づけてあげられたはず。でも来年じゃだめで、一着以外は負けなのだ。
「杏ちゃんらしくないな! ほらっ、オレを元気づけてよ?」
 無理して笑う貴大くんを見るのが辛かった。
「ごめんね」
「どうして杏ちゃんが謝るの? 謝らないといけないのはオレ……」
 そこまで言うと、貴大くんは唇を震わせた。
「オレが勝てなかったから。サヨナラを言わないといけなくなった」
「絶対に、イヤ」
「また、困らせるんだから」
 貴大くんが、足元に視線を落とした。
「お母さんが、別れることないって! 今日のレースを観て、感動したって! また、話し合う機会を」
 言葉を遮るようにして、貴大くんは強引に私を引き寄せ、抱きしめた。
「それは、お母さんが言ったんだろ? オレは、お父さんと約束をしたんだよ」
「でも! もう一度、話し合おう? あんなに頑張ったんだから」
「約束は、約束。頑張ったって優勝しなければ、負けだよ。負け」
 その言葉は、私の心に突き刺さった。貴大くんに抱きしめられたまま、顔をぐちゃぐちゃにして泣いた。


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