box of chocolates
 さらに次の定休日には、お菓子の展覧会に行った。毎年八月に行われているパリ国際菓子見本市というもので、国内だけではなく、招待された海外のパティシエも参加するらしい。今年のテーマは『愛』。お菓子で『愛』を表現するそうだ。誰でも見学できるわけではなく、招待状がなければ入れない。ご主人が招待状を持っていたので、私たちも入ることができた。展示されている作品は、どれもこれもお菓子だとは思えない素晴らしいものだった。
「これは!」
 その中で、ひときわ目を惹く作品があった。飴細工と洋菓子の融合。桶川さんも思わず声をあげていた。
「あ……」
 その作品の製作者の名前を見て、私は思わず声をあげた。
「ご無沙汰してます。桶川先生」
 その声に、ビクッとした。このまま、顔をあげたくないとも思ったが、そういうわけにはいかなかった。
「おお、八潮くん。久しぶりだね」
 八潮さんは、私を見ると一瞬、驚きの表情を見せた。
「今、日本から川越くんの娘さんが修行に来ているんだよ」
「うちの店に修行に来たこともありますから、よく知っていますよ。お久しぶり」
 ご主人の紹介を受け、八潮さんは言った。
「お久しぶりです」
私は軽く会釈をして、奥様の陰に隠れた。
「私の作品以外にも素晴らしい作品がありますから、ゆっくり見学なさって下さい」
「ありがとう」
 そこで一旦、八潮さんの元を離れた。




< 147 / 184 >

この作品をシェア

pagetop