box of chocolates
バレンタインの夜
ニ月十四日は、平日だった。私は、いつものように学校に行き、学校帰りに友達とケーキバイキングに行った。八潮さんには、あえてバレンタインのチョコレートを用意しなかった。特に会う約束をしたわけでもなかったし、私が用意しなくてもたくさんもらえるのがわかっていたからだ。世間はバレンタインで盛り上がっていたけれど、私はいつもの平日となんらかわりはなかった。ケーキバイキングのあとは話が盛り上がり、カラオケにも行った。こんなことになるんじゃないかと思い、母には『今日は帰りが遅くなるから、晩ご飯はいらない』と伝えてあった。

 地元の駅には二十時過ぎに着いた。夜の寒さが背中を押し、家路を急がせた。自宅マンションまで帰ってくると、駐車場に止まっていた車が、パッパッとライトを照らした。その車に見覚えがあった。

「バレンタインに、誰とデートしてきたの?」
 車から降りてきた八潮さんが、白い歯を見せながら言った。
「友達と遊んでいました」
「オレがいながら、悪い子だね。さぁ、乗って」
 私は、言われるがまま、助手席に乗った。
「連れ去ったりしないから、ご心配なく」
 八潮さんは、クリスマスの夜と同じようなことを言った。
「今日は、何かあったんですか?」
「バレンタインの本命チョコをもらいにきた」
「私から貰わなくても、たくさん貰えたでしょう?」
「話、ちゃんと聞いて。オレは『本命チョコ』をもらいにきたんだ」
 そう言って、八潮さんの鋭い視線が私を捕まえた。この視線には、絶対に勝てない。
「チョコ、用意していません」
 私が言ったとほぼ同時に、八潮さんが助手席のシートを倒した。
「杏が、チョコレート」
 そう囁くと、私の首筋にキスをした。
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