box of chocolates
 十二月に入り、街のいたるところでクリスマスツリーを目にして、クリスマスムードがさらに高まった。貴大くんは、クリスマスどころではなく、有馬記念に向けて頑張っているに違いない。レースは毎週あるし、有馬記念のことばかり考えてもいられないだろうけれど。今日は、とても寒い。鉛色の雲が広がり、今にも雪が降り出しそうだ。貴大くんからもらった手袋で手を温めながら、買い物に出かけた。貴重な休日。貴大くんへのプレゼントを買いに行こうとしていた。電車に乗り、ガタゴト揺られながら、ひとりあれこれ考えていた。そういう時期だからか、幸せそうなカップルや家族連ればかりが目についた。

 どうして私はひとりなんだろう。お互いに愛し合っているのに。

 貴大くんに会いたい。そう思うと、まわりの景色がぼやけて見えてきた。買い物どころじゃなくなった。結局、何も買わずに家に帰った。何をプレゼントすれば良いか考えてからまた買いに行けばいいか。
「寒かったでしょう? カフェオレでも飲む?」
 母が優しく出迎えてくれた。リビングのソファーに座っていると、母がカフェオレの甘い香りを漂わせながらやってきた。母が運んできたトレイには、カフェオレと一緒にマカロンが添えてあった。
「お父さんが、杏の作ったマカロンを気に入ってね。来年から、お店に並べたいって言ってたよ」
 このマカロンは、どうやら父が作った試作品のようだ。なんだかほんの少しだけ父に近づけた気がして、嬉しかった。
「いただきます」
 ひと口食べると優しい甘さが広がって、幸せな気分になった。そうだ、これだ! 私は、たまごといえどもパティシエなんだ。プレゼントを買わなくても、気持ちのこもった最高のプレゼントができると思いついた。

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