box of chocolates
そんな2人のクリスマス
 あと数日でクリスマスを迎える日、中山競馬場では有馬記念が開催された。けがの同期の替わりに騎乗した貴大くんは、三着に入った。私は、リアルタイムでレースを観ることはできなかったけれど、無事に役目を終えてくれてホッとしていた。

 閉店後、店の厨房にこもった。貴大くんへの誕生日とクリスマスプレゼントは、私のオリジナルのスイーツにしよう。私がパティシエとして頑張っているところを、このお菓子たちを食べて感じてほしいと思った。

 今年も、クリスマスにはたくさんのお客様が店に来てくれた。どのお客様も、大事そうにケーキの箱を抱えて、幸せそうに帰っていく。店内で食べるお客様は、カップルが多くて、ちょっと羨ましかったりするけれど。
『美味しかった』
 その言葉を聞けたら、私は充たされた。大切なクリスマスの時間に、うちの店のスイーツを選んでもらえて光栄だった。
 閉店後は、毎年恒例のささやかなクリスマスパーティーをした。
「杏のケーキは、なかなか好評だったな」
 父が、ボソッと呟いた。思わず、頬が緩んだ。
「じゃあ、来年は」
 貴大くんとの交際を認めてくれる? そう聞きそうになった。
「もっとステキな作品を作らなきゃ」
 でも、まだまだだと思い、聞かなかった。聞かなくても結果を出せば、お父さんから何か言ってもらえる。そう信じて。


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