box of chocolates
その夜も私は、あの部屋で彼に抱かれていた。私は、彼以外の男性は知らない。でも、この人は女性の体を熟知していてどうすれば悦ぶか、心得ている気がしていた。今日は疲れていて早く眠りたかったのに。彼の要望に応えて、疲れも忘れて、彼の体にしがみついていた。

 行為が終わると私は、枕に顔をうずめていた。
「杏は、いやらしい体をしている」
 八潮さんが水を飲みながらそう呟いた。
「いやらしい体にしたのは、あなたでしょ?」
 そう応えると、ふっ…と笑った。
「その体、手放したくないな」
 『手放したくない』のなら、結婚してくれたらいいのに。でも、彼に結婚はむいていないと気付いていた。枕の下に、長い髪がついていたからだ。この髪をみつけたのは、一度や二度じゃない。今度みつけたら、話をしよう。私は、腹をくくっていた。
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