box of chocolates
新たな春
三月になり、私は、製菓専門学校を卒業した。桜の木の下で初めて八潮さんを見たのが十八歳の春。憧れから好きと思うようになり、その歳のクリスマスに初めてのキス。バレンタインにバージンを失った。そして、肉体関係は二十歳の冬まで続いた。今でもうちの店にはよく顔を出す。師匠であるお父さんがいることと、私を誘い出すために。私は、八潮さんが私以外の女性と関係していることを知ってから、誘いには一切乗らないようにしていた。

 これで良かったんだ。

 私は、八潮さんを、純粋に尊敬するパティシエのひとりとして見ていた。


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