box of chocolates
今日も、とわさんは食事を済ませると、実家に帰ることになっていた。
「杏、これからのことなんだけど……」
兄がとわさんを実家まで送るために出ていってから、お父さんが切り出した。
「四月から見習いパティシエとして頑張りますので、よろしくお願いします」
専門学校を卒業したら、しばらくはうちの店で働く予定になっていた。
「そのことなんだけれど。この店じゃなくて、他の店で修行したらどうかと思って」
「修行? どこか受け入れてくれる店があるの?」
「ダンデライオンの二号店だ」
父のその言葉に、背筋が凍りついた。厨房の奥のベッドルームを思い出し、ゾクッとした。
「でも、どうして?」
「あの店ならここからひと駅で、駅からも近い。他の店に修行に出すのはいろいろ心配になるけれど、八潮くんのところなら信用できるし」
父は、将来の私のことを思っていろいろ考えてくれたに違いない。そんな父を裏切ることはできない。
「それで、いつから?」
「四月からニ年間で話をしている。どうする?」
言葉に詰まった。でも、過去は過去のことで。今は、立派なパティシエになるために修行をしたいという思いが強かった。
「……わかった」
返事はしたものの、四月からニ年間か。尊敬する八潮さんの元で勉強させてもらえるのはありがたいけれど。
『その体、手放したくないな』
最後の夜に聞いた八潮さんの言葉が頭をよぎり、不安になった。
「杏、これからのことなんだけど……」
兄がとわさんを実家まで送るために出ていってから、お父さんが切り出した。
「四月から見習いパティシエとして頑張りますので、よろしくお願いします」
専門学校を卒業したら、しばらくはうちの店で働く予定になっていた。
「そのことなんだけれど。この店じゃなくて、他の店で修行したらどうかと思って」
「修行? どこか受け入れてくれる店があるの?」
「ダンデライオンの二号店だ」
父のその言葉に、背筋が凍りついた。厨房の奥のベッドルームを思い出し、ゾクッとした。
「でも、どうして?」
「あの店ならここからひと駅で、駅からも近い。他の店に修行に出すのはいろいろ心配になるけれど、八潮くんのところなら信用できるし」
父は、将来の私のことを思っていろいろ考えてくれたに違いない。そんな父を裏切ることはできない。
「それで、いつから?」
「四月からニ年間で話をしている。どうする?」
言葉に詰まった。でも、過去は過去のことで。今は、立派なパティシエになるために修行をしたいという思いが強かった。
「……わかった」
返事はしたものの、四月からニ年間か。尊敬する八潮さんの元で勉強させてもらえるのはありがたいけれど。
『その体、手放したくないな』
最後の夜に聞いた八潮さんの言葉が頭をよぎり、不安になった。