box of chocolates
ハロウィンパーティー前日の、十月三十日。閉店時間三十分前に、八潮さんに呼び出された。
「申し訳ないんだけれど、本店に試作品を届けてくれないかな? 本店には連絡しておくから」
 八潮さんは用事があるのか、少し慌てた様子で私に紙袋を渡した。
「届けたらそのまま帰っていいから。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
 私は、着替えて本店に向かった。本店は、同じ沿線にあって、私も子どものころ父に連れられて行ったことがあり、よく知っていた。

「こんばんは、川越です。試作品をお持ちしました」
「こんばんは。浩輝が自分で持ってくればいいのに、ご苦労さま。これ、良かったら食べて」
 八潮さんの父は、気さくで、さりげなく気を配ってくれる、優しい方だ。仕事に関しては、職人さんらしく厳しいみたいだけれど。
「ありがとうございます! お疲れ様でした」
 私は、お遣いのお駄賃に店のハロウィンクッキーをいただいた。ハロウィンで子どもがお菓子をもらっているみたい。明日が、楽しみだな。

< 32 / 184 >

この作品をシェア

pagetop