box of chocolates
それからニ日ほど経った、ある日の夜。
「ただいま」
「杏、お帰り。ちょっといいか?」
 私の帰りを待っていた父が、手招きをした。連れて行かれた場所は、店内の奥にある経理室だった。父は、私をパソコンの前に座らせた。パソコンは、うちの店のホームページに繋がっていた。
「お客様からの要望メールの中に混じって、こんなメールが届いていた」

『ダンデライオンでの修行を、今すぐやめさせろ。さもないと、娘の秘密をネット上で暴露する』

 何、これ? 私の秘密を暴露するって。私の耳に『バタン』とドアが閉まるような音が、蘇った。あの夜、やっぱり誰かに覗かれていたのか。鼓動が早くなり、気分が悪くなった。
「修行は、中止だ」
「でも」
父さんは、ため息をついた。
「誰かわからないが、あの店に杏を気に入らない人間がいるんだ」
「あの店の人間とは、限らないでしょう?」
 スタッフは、みんな良い人だ。あの中の誰かが、脅迫のようなメールを送ってきたなんて、信じたくなかった。
「どちらにしても、こんなメールが届いている以上、あの店では働かせたくない」
 今度は、私がため息をついた。
「八潮くんと今後のことを話してみる。とにかく明日は、休みなさい」
「はい」

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