box of chocolates
月曜日になり、私は、優芽ちゃんが通う大学に向かった。その大学は、ランチが美味しいと評判で、私が一度食べてみたいと話をしていたから、今日のランチは、学食に決まった。
「遠くまでごめんね」
「いえいえ、良い気分転換になるよ」
 学食で人気の定食を注文して、席に座った。初めて大学内に入って、学食を食べた。高校から専門学校に進学した私には、何もかもが新鮮で、夢に向かって勉強している学生たちが羨ましく見えた。私も、夢に向かって修行中だけど。隣の芝は青く見えるものだ。
「ねぇ、杏ちゃん、私に何か隠し事してない?」
ドキッとした。まさか、あの部屋を覗いたのは、優芽ちゃん? そんなことは有り得ない。
「隠し事って?」
 冷静に聞き返した。
「彼氏、できた? 杏ちゃん、会わないうちにすごく綺麗になったもん!」
「そうかな? それよりも、優芽ちゃんの話を聞きたいなぁ。生チョコの行方を」
 私は、自分の話はしたくなくて、すぐに話題を変えた。
「ああ! あれ、ね。渡す勇気がなくて。自分で食べたの。美味しかったよ」
 優芽ちゃんは、ストレートの黒髪で美人。そんな子が好きになる人ってどんな人なのだろうか?
「優芽ちゃんにチョコをもらって、断る相手なんていないよ! どんな人?」
「見た目は普通、なんだけれど。すっごく優しい目をしてるの」
 好きな人の話をしただけで、耳まで赤くなる優芽ちゃんを見て、私の恋は酷く歪んだものだと思った。優芽ちゃんが話したかったのは、片思い中の彼のことだったようだ。目をキラキラさせて話す優芽ちゃん。恋する女の子は可愛いと思った。
「いいなぁ! 私も優芽ちゃんみたいな恋をしたい」
 思わず本音をもらした。なにも八潮さんみたいなイケメンである必要はない。一緒にいたら安心できるような、そんな相手に出逢いたい。そして、八潮さんとの関係を完全に断ちたい。そう願った。
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