box of chocolates
「ごちそうさまでした。ありがとう」
 なんだか照れくさくなって、お互い、無言で紅茶を飲んだ。飲み終わったと同時に私は立ち上がった。
「ごちそうさまでした。片付けてきますね」
 慌てて皿を片付けようとしたら、手と手がぶつかった。お互いにサッと手をひいた。まるでひと昔前のマンガのような展開なのに、ドキドキしすぎている。逃げるようにして席を立った。

 片付けが終わり、戻ってくると、戸田さんが座ったままウトウトとしていた。寝る子は育つというけれど、嘘だなと思いながら、向かい合わせに座った。腕組みをしたまま、スースーと寝息をたてる戸田さん。私は、ぼんやりと彼を眺めていた。なんだか、癒やされる。会うのは今日でまだ二度目なのに、ずっと前から知り合いのような、たとえて言うなら、幼なじみみたい。戸田さんがもし、彼氏なら。そんなことを考えると、やっぱり頭の中に八潮さんが浮かんでくる。これから戸田さんの車で出かける予定だけれど、もし、八潮さんみたいにせまってきたら? いや、戸田さんはそんな人じゃない。もしそんな人だったら、私をほったらかしにして呑気に昼寝なんかしない。

 スースーと気持ち良さそうに眠る戸田さん。小顔で、長い睫毛。寝顔は女の子のようにも見える。そんな戸田さんが突然、口を大きく開けてパクッとした。夢でも何か食べてるの? 思わず笑ってしまった。私の笑い声に、戸田さんが重い瞼を開いた。私とバッチリ目が合うと、慌てて立ち上がった。
「わっ、ご、ごめんなさい。寝てしまった」
「疲れているんですね」
「いや、あの。本当にごめんなさい」
「そんなに謝らなくてもいいですよ」
 私も立ち上がって、店を出た。

< 53 / 184 >

この作品をシェア

pagetop