box of chocolates
 実家が茨城のとわさんは、食事を終えると実家に帰ることになった。

「ちょっと話そうよ」
 とわさんを駅まで送ってきた兄が、帰るなりそう言った。私はコーヒーとクッキーを用意して、部屋に運んだ。
「つい最近までかわいらしい女子高生だと思っていたのに。会わないうちにずいぶんと色っぽくなって」
「はぁ~? お兄ちゃん、何を言ってるの?」
 そんなことを言われるだなんて思いもよらず、なんだか照れくさくなった。
「恋、でもした?」
 そう言われた瞬間、八潮さんの顔が頭に浮かんで思わず顔を赤らめた。
「やっぱり! 恋をすると綺麗になるっていうけれど、杏も例外じゃなかったってワケか」
 コーヒーをひと口飲むと、ちょっと寂しそうに笑った。
「でも、ね。十歳上の人なんだ。そんな人からすれば私なんて、子どもかなぁ?」
「かわいいなぁ~」
 兄が、そっと私の頭を撫でた。心の奥がくすぐったい。
「もう! すぐ子ども扱いするんだからっ! きっと八潮さんも、私のことを子どもだと思っているんだろうなぁ」
 私は、ため息をつきながら、独り言のように呟いた。
「……八潮?」
兄が聞き返す。
「あっ! ははは。八潮浩輝さんって言う、パティシエさんなんだけど」
「中学の先輩だから知っているよ。杏の恋のお相手は、八潮浩輝なの?」
「……私の、片想いだよ」
「……そっか」
 兄の顔から、笑顔が消えた。
「八潮さんと私じゃ、つりあわないかな?」
「つりあわないとか、そういうことじゃなくて」
 兄は、真顔でサクサクとクッキーを食べていた。そして、急に私のほうを見ると、口を開いた。

「八潮浩輝には、気を付けたほうがいい」


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