box of chocolates
 秋を過ぎ、街が赤や金に彩られる十二月。東京に住む兄が実家に帰ってくるとの連絡があった。小さい頃から私を可愛がってくれていた兄とは、今でも仲が良かった。メールでやりとりはしていたけれど、会うのは久しぶり。しかも、彼女を連れて来るというのだ。

「ただいま」

 その声に、私は主人の帰りを待つ犬のように飛び跳ねながら、玄関に向かった。
「おかえりなさい」
「こんばんは。はじめまして」
 遠慮がちに挨拶をした彼女は、名前を白岡とわと名乗った。歳は、私よりニ歳上だけれど、それでも兄とは七歳も離れていた。
「こんな綺麗な人と、どこで知り合ったの?」
「オレの所属している厩舎で厩務員をしていて。あ、なんか照れくさいな」
 兄は、地方競馬の騎手をしている。騎手と厩務員のカップルと聞くと、すごく珍しい感じがするけれど、社内恋愛みたいなものか。普段、まわりが男性ばかりの職場で働いているとわさんは、二十歳とは思えないくらい、大人っぽくて、しっかり者に思えた。
 
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