box of chocolates
 レースを終えた戸田さんのところへ行った。この場所も、関係者じゃないと入れないところのようだ。声をかけた御幸さんに、戸田さんは軽く会釈をした。私に気付いて、目を丸くしていた。
「戸田さん、お疲れ様。杏と友達なんだって?」
「はい」
 「杏は、うちの店で修行していたパティシエのたまご。今日は、休みをとってわざわざ函館まで応援に来てくれたんだ」
「函館まで、ミユキヒルメの応援ですか」
 え? 違う!私は、戸田さんの応援に来たんだよ。心の声は、言葉にならない。
「オレの婚約者だから。戸田さん、手を出さないでね」
 私がいつ、八潮さんの婚約者になったんだ? 八潮さんのとんでもない発言に目を丸くした。
「八潮さん、おかしなことを言わないで下さい」
 アタフタする私の手を、八潮さんがグイッと引っ張って引き寄せた。
「じゃあ、戸田さん。またね」
「はい」
 やだ! 離して! 戸田さんが誤解してしまう。今日だって、戸田さんに会いたくて来たのに。

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