box of chocolates
すれ違い
結局、八潮さんと一緒にレースを観ることになった。メーンレースでは、ミユキヒルメは三着だった。
「メーンレースも終わったことだし、行こうか」
 八潮さんは、私の手を引っ張るようにして歩き出した。
「や、八潮さん! 逃げたりしませんから、手を離して下さい!」
「そう? じゃあ、離してあげる」
 パッと手を離され、ホッとした。本当は、逃げ出したい気分だったけれど。八潮さんがどこに行くかもわからずについていくしかなかった。
「浩輝!」
 どこかで聞いたことのある、渋い声が八潮さんを呼び止めた。振り返ると、御幸サブロウさんがいた。このフロアは、馬主や関係者しか入れない場所なんだと気がついた。
「なんだ、浩輝? かわいいお嬢さんを連れて」
「彼女は、うちの店で修行をしていたことがあるパティシエですよ」
「こ、こんにちは! 川越です!」
 慌てて挨拶をすると、御幸さんが笑顔を見せた。
「浩輝は手の早いヤツだから、お嬢さんも気をつけて」
「そんな冗談、やめてくださいよ」
 八潮さんは、サラッと言って笑ったけれど。御幸さんの言う通りで、苦笑いしかできない。

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