box of chocolates
夜景よりも輝く
 私が誘ったのに、ごちそうになった。
「ごちそうさまでした。今度、またうちのケーキをごちそうするね」
「ありがとう」
 一緒に食事をしたけれど、八潮さんの話でなんとなく気まずい雰囲気になってしまった。
「函館と言えば、五稜郭だね」
 気まずいまま、帰りたくなかった。なんとか話を続けて、もう少しだけ一緒にいたかった。
「行ってみる?」
 思いがけない誘いに、私の胸は躍った。
「うん。ちょっと調べてみようか」
 すぐに五稜郭ついてスマホで調べたけれど、今から移動しても営業時間に間に合わない。
「十九時までだって。残念」
「しかたがないね。今日は、帰ろうか」
「いやだ」
 正直、観光なんてどうでもよくて。一緒にいると、ずっといたいと思っていて。どちらかといえば口下手で、私ばかりが話をしていたとしても、そばにいてほしくて。『恋人気取り』じゃなくて、本当の恋人になりたいと思えるような人で。

 そんな思いが、戸田さんを引き止めていた。





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