box of chocolates
 私のひと言に、戸田さんは目を丸くした。
「わかった。じゃあ、どこかでお茶でも?」
「公園のベンチで充分だよ」
「じゃあ、川越さんが泊まるホテルの近くまで行こう? そこで話をしようよ」
「うん」
 私は、無理に考えようとしているだけのような気がしてきた。戸田さんは八潮さんとは違うタイプの男性だ。私の気持ちをぶつけても良い相手なのかもしれない。
「ところで川越さんは、どうして函館に来ようと思ったの? 本当にミユキヒルメの応援?」
「違う違う。ミユキヒルメのことは、あの時初めて知ったもん」
 さすがに戸田さんを追いかけて、なんて言えない。
「そっか。じゃあ、それも八潮さんの嘘か」
「そうそう。困った人だよね。函館に来たのは、夏競馬に興味があって……」
 そんな嘘をつくことしかできない。
「競馬に興味持ってくれるなんて嬉しいよ」
 私の苦し紛れの嘘にも気づかない戸田さんは、心底嬉しそうに笑った。

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