box of chocolates
ぼんやりとしている私。スマホが着信を告げているのに、すぐに出ることができなかった。
『もしもし』
『もしもし、戸田です。今、大丈夫?』
『うん』
『他の馬でミユキヒルメと同じレースに出ることになったんだ』
 貴大くんは、声を弾ませてそう言った。自分からわざわざ電話してくるくらいだから、よっぽど嬉しかったに違いない。
『そうなんだ』
 それなのに私は、そっけない返事をした。
『どうしたの? 元気ないみたいだけれど』
『そ、そうかな。ごめん。仕事のことで』
 咄嗟に嘘をついてしまった。
『そう。オレこそ、ごめん。突然、電話して。どうしても杏ちゃんに伝えたくて』
 電話口の貴大くんは、すっかりテンションが下がっていた。
『ううん。応援してるから、頑張ってね。じゃあ、また火曜日に』
 そう言ってこちらから電話を切った。

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