甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*
「あの、お代金本当に
良かったんですか?」


結局、お饅頭代は受け取って
貰えなかった。


「ああ、気にすんなって。
言ったろ?いくらでも食わせてやるって。」


「だけどーーー売り物だし……」


「お前、結構真面目だなぁ。」


「どうしてもっていうんだったら
体でーーーー」
「遠慮なく、いただきますっ!」


「おう、食え。」


包装を丁寧に開け、
そっと手に取ってみる。
すっかり葉桜になってしまった
木の隙間から漏れている
陽の光にかざすと
キラキラとキラキラと
光輝いていて
まるでーーー


「宝石みてぇだろ?」


「あっ、うん。
今、私もそう思いました。
子供の頃、お母さんが
よく宝石ゼリーよって
寒天で作ってくれてたんです。
それを思い出しました。
だけど、こんな綺麗じゃなかったなぁ。
でも、嬉しかったですよ。」


「そっか、いいお袋さんだな。
まぁ、食べてみなって。」


「はい。」


一口、口に入れてみる。


うわぁ……。
なんて優しい味なんだろ……。
それにほのかに香る甘い香りが
子供の頃、お母さんに
抱きついたときみたいな……。


「どうだ」


「はい…………うっ……。」


「ちょ、お、お前どうしたんだよ。
なんで泣いてんだよ。
変な味したのか?」


「ち、違います……。
ちょっと、思い出して……
お母さんを……。」


「そっか……お袋さんを……
っで幾つの時だ?」


「いくつって?」


「いや、だから
お袋さん、もういねぇんだろ?」


「いますよ。
めちゃ、ピンピンしてますけど。」


「はあ?
だけど今、お母さんを
思い出すとかなんとか……。」


「ええ、実家にいるお母さんを
思い出したんです。中々帰れなくて……。」


「なんだ、心配したじゃねぇかよ。
俺、てっきり……。
ったく紛らわしい奴だな。」


と、
笑いながら頭をガシガシされた。
それは坂下さんとは全然違う感じで
荒っぽいものだったけどーーー
嫌じゃなかった。


「もうっ、髪が乱れるじゃないですか」


「いいねぇ。
なんならもっと乱れさせてやるよ。」


「っ/////////
な、な、んてことを。
い、いりません!
それより早く戻ったらどうです。
お仕事あるんですよね?」


「言われなくても戻る。
おっ、今夜予定空けとけよ。
ユズんとこで飯食うから。
後で迎えに行くわ。じゃあな、
ちゃんと歯、磨けよぉ~。」


そう言いながら、
サトルさんはお店に帰っていった。


「もう……歯、磨けって
余計なお世話よ。
言われなくても磨くわよ。
だけど、今はこれだな。」


私は残りのあじさいを
今度は大きな口を開けて食べた。







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