チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

目を開けた。随分暗くなったのに、僅かな光が目に染みる。気付かないんだ、あたしはいつも。何気ない日常が、ささいな光が、こんなにも眩しい事に。

「マモルが最低だって言うなら…あたしは、もっと最低だよ」

マモルが微かにあたしの声がする方に顔を向けた。
多分真っ直ぐなマモルの目を、見る自信があたしにはない。

「あたしはマモルに…嘘をついてた。ずっと…言えなかった事がある」

怖い。嫌われるかもしれない。それでもマモルは逃げないでくれたから。
だから。

「あたしの名前、サクラなんかじゃない。本名は…亜弥っていうの。それにあたし…東京で、宮川さん…咲羅さんに、会った」

マモルを見てないからわからない。でもきっと、驚いてる。人の表情を見るのって、こんなに怖いんだ。そしてそれが見えないことは、それ以上に怖くて。

「あたし…援助交際、してたの。その時使ってた名前が、サクラ。あたしの…あたしの、好きな人の名前からとった」

一瞬、佐倉さんに名前を呼ばれた気がする。軽く頭を振った。

「あたしの好きな人、佐倉さんは…家庭が、ある。…不倫だったの」

最低でしょ?、俯いて、呟いた。さっきのマモルの様に。
小さな虫の音が耳を過った。

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