チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「個展のバイトね…あれ、宮川さんの個展だったんだ。あたし全然知らなくて…でも、携帯番号とか名前とかで、もしかしたらって思ってた。マモルには…言えなかった」
ごめんね。あたしの声は闇にかき消されそうな程に小さくて。
マモルの声を待った。二人の呼吸と、風の音と、遠くで話す人の声と、それから虫の声。
それらが交錯する中、マモルが口を開いた。あの、優しい声。
「…咲羅、元気だった?」
あたしは思わずマモルの顔を見た。
真っ直ぐ前を見ている瞳は、何も映っていないのにとても綺麗で。
とても、綺麗で。
「元気、だったよ。こき使われたし」
「ははっ、咲羅らしいな」
「…凄く、優しい絵だった。マモルの音楽みたいな、優しい」
あの日聴いたマモルのバイオリンと宮川さんの暖かい色が、胸を満たした。
愛しくて、切なくて。
少し視線を落とす。
その耳に、マモルの声が届いた。
「…チェリは、優しいね」
『優しいね』
…何度もマモルに思った言葉。
その言葉が今、マモルの口から。
驚いて、顔を上げた。