チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
黙ってしまったあたしを見て、知恵が「バカ、」と春樹を叩く。

春樹もばつが悪そうに、「…ごめん、言い過ぎた」と呟いた。

あたしはコーラを飲み干して言う。

「…春樹の言う通りだよ。佐倉さんは、あたしなんか愛してない。ただ…あたしが佐倉さんを好きだから。だからやめらんないの。…それだけが、理由」

佐倉さんは、キスをしてくれない。
多分、いや絶対、奥さんにはキスをする。
それが、あたしと奥さんの違い。

天と地程の、大きな差だ。

「あたし、そろそろ帰るね」

立ち上がったあたしに、二人が何か言いたげな視線を向けた。
多分、あたしの事を気にしてる。
そんな二人がなんだか嬉しくて、あたしは笑顔で言った。

「なーによ。あんまデートの邪魔しちゃいけないって思っただけ。圭織のバイト先にでも顔出してくるよ」

二人のおでこを順に叩いて、そこでようやく二人の笑顔が戻った。

「…ありがとね、心配してくれて」

小さく告げて、マックを後にした。

悪いことだと知りながら、いつも味方でいてくれる知恵と、悪いことだと知っているからこそ、いつも止めようとしてくれる春樹。

それぞれの優しさが、心に染みた。

染みて、やっぱり、痛かった。
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