チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
……………
「いきなり奥さんが友達と旅行に行くとか言い出してさ。ちょうどよかったよ。できればずっと行ってて欲しいくらい」
スーツを着ながら、独り言の様に高藤さんは嬉々と話していた。
あたしはシーツにくるまり、視線だけを高藤さんに向ける。
「でもよかった、サクラちゃんあいてて。今日暇だったの?」
「はい。ちょうど友達と別れて、暇してたとこだったし」
「そりゃラッキーだったな。日頃の行いがいいからか?」
ご機嫌にそう言う高藤さんに、援交しといてそりゃないだろうと突っ込みたくなった。
「まだいる?」
「…ん。ちょっと寝てから帰る」
「そっか。じゃ、俺は先行くね」
そろそろ子供が塾から帰る時間だし、と、財布を取り出した。
諭吉を五枚置き、考えてもう一枚置く。
さすがに驚いて、あたしは「こんなもらえないよ」と起き上がった。
そんなあたしを高藤さんは「まあまあ」となだめ、「久しぶりだからね。お小遣い」と笑顔で言った。
戸惑ってるあたしなんかお構い無しに、「それじゃあね」と出ていく。
ドアが閉まると、部屋にはあたしと諭吉だけになった。