わたしから、プロポーズ


瞬爾から、はめなくていいと言われ、箱にしまったままの指輪を取り出した。

「やっぱり、はめてみようかな」

指輪をつけていれば、少しは分かるだろうか。

心の迷いの原因が。

左手薬指を見つめていると、ドアが開いて瞬爾が入ってきた。

「どうしたんだ、莉緒?指輪なんかはめて」

苦笑いする瞬爾は、私より先にベッドへ潜り込んだ。

瞬爾にとっては、すっかり私が指輪をはめていない姿が普通になっている。

「うん…。ちょっとはめてみただけ」

本来なら、つけているのが当たり前の指輪なはずなのに。

慣れないせいか、若干の違和感を覚えつつも、ベッドへ潜った。

自分で作った心の溝は、瞬爾の婚約者であるという自覚が芽生えれば、埋められていくものなのだろうか。

そんな事を考えながら目を閉じると、ふんわりと唇に触れられる感触がした。

それは、瞬爾の唇で、当たり前の様に私の唇に重なる。

そして、少しずつ首筋から胸元へと移動してくるキスに、自然と甘い声が漏れていた。

体を重ね合う事には、まるでぎこちなさを感じない。

指輪をはめたまま、瞬爾の体に手を回した。

その瞬間、ほんの少しだけ見えた気がする。

瞬間の婚約者である“私”が…。

< 91 / 203 >

この作品をシェア

pagetop