イジワル同期の恋の手ほどき
「ねえねえ、さっき、渡してたのって、お弁当よね?」
更衣室で着替えてから、席に着くと、隣の席の藍田月世(あいだつきよ)が声を落として聞いてきた。
いつもながら鋭い。
月世は同い年の転職組なので入社年度は三年遅いけれど、社内で一番仲がいい友人だ。
「そうだけど?」
内心ドキドキするのを隠して、平静を装って答える。
「あんたたち、いつからそういう関係になったわけ?」
「そんなんじゃないから」
思わず大きな声になり、オフィス中の視線がいっせいにこっちに集まった。
隣の島から宇佐原が「どうした?」と目で問いかけるので、「なんでもない」と首を振る。
「あいつが、『試食してやる』って言うから、作っただけよ」
ぼそぼそと続けた言葉に、月世が目をまん丸する。
「試食って、なに?」
泉田さんへの片思いを知っている月世に、そっと事情を説明する。
「ふ~ん、なるほど。そういうわけか」
月世はにやにや笑いながら、宇佐原を見た。
宇佐原は何事かとさっきからこっちを見ているが、再び、「なんでもないから」と目で告げる。
「だから、しばらく私もお弁当なの」
「なんか、おもしろいことになりそうね」
月世はますますいたずらっぽく目を輝かせている。
「全然おもしろくなんてないよ、こっちはおかず考えたり、前の晩から下ごしらえしたり、ほんといろいろ大変なんだから」
「まあ、この機会に、料理の腕も上がれば、一石二鳥だし、せいぜいがんばりなさい」
なんか他人事だ。
いろいろと相談に乗ってもらおうと思っていたのに、すっかりあてがはずれてしまったな。
それに一石二鳥って、いったいなんのこと?