イジワル同期の恋の手ほどき

昼休み、私の席のうしろを通った泉田さんに声を掛けられた。

「あれ? 木津さんも今日はお弁当なの? 珍しいね」

「そうなんです。最近ちょっと、食生活が乱れてて」

話しかけられただけで、跳ね上がる心臓の音を、気づかれないように、とびきりの笑顔で答える。

「おいしそうだね」

泉田さんに微笑みながら言われて、思わず顔がほころぶ。
いけない、また顔に出ていると頬を叩いて、笑顔を消す。
頬に触れた指先に熱を感じた。
たったこれだけの会話なのに、頬が紅潮しているのが自分でもわかる。

泉田さんの姿が見えなくなった途端、大きく息を吐いた。

顔を上げると宇佐原と目が合って、にかっと笑う。
宇佐原が指で丸を作ってみせるから、嬉しくなって、「うん」とうなずく。
この様子だと高得点がもらえそう。

泉田さんは、いつも外食派。
近くにある昔ながらのうどん屋に行くことが多いみたいだけど、私たちがいつも通っている定食屋にも、たまに現れるから、それがすごく楽しみだった。
しばらくはその楽しみもお預けだな。

更衣室から戻ると、机の上に洗ったお弁当箱が置いてあった。

″味はいいけど、彩りが足りない″

ぽつんとひと言、感想を書いたメモがついていた。
まあ一日で、合格点がもらえるとは思ってなかったけど、なんとなく悔しい。

「よし、明日こそ」

俄然やる気が湧いてきた。
そう、なぜか宇佐原には、対抗意識を燃やしてしまう。
仕事でも、それ以外のささいなことでも。
< 19 / 93 >

この作品をシェア

pagetop