イジワル同期の恋の手ほどき
昼休み、私の席のうしろを通った泉田さんに声を掛けられた。
「あれ? 木津さんも今日はお弁当なの? 珍しいね」
「そうなんです。最近ちょっと、食生活が乱れてて」
話しかけられただけで、跳ね上がる心臓の音を、気づかれないように、とびきりの笑顔で答える。
「おいしそうだね」
泉田さんに微笑みながら言われて、思わず顔がほころぶ。
いけない、また顔に出ていると頬を叩いて、笑顔を消す。
頬に触れた指先に熱を感じた。
たったこれだけの会話なのに、頬が紅潮しているのが自分でもわかる。
泉田さんの姿が見えなくなった途端、大きく息を吐いた。
顔を上げると宇佐原と目が合って、にかっと笑う。
宇佐原が指で丸を作ってみせるから、嬉しくなって、「うん」とうなずく。
この様子だと高得点がもらえそう。
泉田さんは、いつも外食派。
近くにある昔ながらのうどん屋に行くことが多いみたいだけど、私たちがいつも通っている定食屋にも、たまに現れるから、それがすごく楽しみだった。
しばらくはその楽しみもお預けだな。
更衣室から戻ると、机の上に洗ったお弁当箱が置いてあった。
″味はいいけど、彩りが足りない″
ぽつんとひと言、感想を書いたメモがついていた。
まあ一日で、合格点がもらえるとは思ってなかったけど、なんとなく悔しい。
「よし、明日こそ」
俄然やる気が湧いてきた。
そう、なぜか宇佐原には、対抗意識を燃やしてしまう。
仕事でも、それ以外のささいなことでも。