滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

前部長の不倫ネタだって、
元々は隠れて付き合っていた事が誰かにばれてあんな大騒ぎになったんだから…。



「いつ、自分の身に災難が降りかかるかわからないもんね…」



ブツブツと独り言を話しながら歩いていると、
ふと背後に人の気配を感じた。



私は立ち止まり振り返るが、そこには誰もいないし気配すら無い。



自宅までの道のりは閑静な住宅街を抜けた先にあるので、

普段は静かで夜になれば人っ子一人歩いていない時もある。



それが時に怖かったりするのだが…。





「…気のせい、かな」




あずさの話に、やけに周りの視線が敏感になっていただけで、
単なる勘違いかもしれない。




「うぅっ、寒いから早く帰ろう」




もう夜十時を回って外の気温もグッと冷え込んできた。



私は寒さから逃げるように足早に、自宅へ向かった。

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